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その他

顧客接点の進化──デジタル時代に求められる新たなCXのかたち

2025/08/29公開
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デジタル技術の進化とともに、企業と顧客の接点は年々多様化し、複雑さを増し続けています。
競争が激化する中、どの企業も「どれだけ顧客と深く結びつけるか」が生き残りのカギです。
本コラムでは、現代の顧客接点の現状と課題、そしてこれからの時代に求められる顧客体験(CX)の在り方について考察します。

顧客接点の重要性

スマートフォンやクラウドサービスの普及、通信インフラの発達により、企業と消費者の接点はかつてないほど多様化し、そして複雑化しています。
その為、「顧客接点(タッチポイント)」という言葉自体が現代の事業者にとって極めて重要な経営課題となりつつあります。
それは単なる「商品やサービスの売り手と買い手のやりとり」にとどまらず、いかにして顧客との信頼関係を構築し、持続的な関係を生み出すか、企業のブランド価値や競争力そのものに直結するテーマといえるでしょう。

一昔前であれば、タッチポイントの多くは対面であり、店舗やカスタマーサポート窓口、営業活動など、物理的な場所や人が仲介するものでした。
しかし今では、消費者自身が情報を自分のタイミングで調べ、問い合わせをし、購買に至る。しかも、その過程で複数のチャネルが縦横無尽に活用されています。
このような新しいタッチポイントの全体像と、今後どこへ向かうのか、企業はどのように対応すべきかについて考えていきます。

現在の主なタッチポイント

まずは、現代企業が持ちうる主なタッチポイントについて整理してみましょう。

主なタッチポイント(既存チャネル)

WEBサイト:

企業やブランド情報、商品・サービス説明、問い合わせ窓口の中心となる。

メールマガジン:

キャンペーンやお知らせを定期配信し、顧客との継続的な関係構築に寄与。

アプリ/アプリ内サポート:

モバイル端末からのアクセスを強化し、インアプリメッセージやガイド機能でUX向上。

SNS:

InstagramやX(旧Twitter)等を通じて多様な層への情報発信やブランドファンとの交流が可能。

チャットボット(定型文対応):

自動応答で即時の問い合わせ対応やFAQサポートを担う。

比較的新しいタッチポイント

コミュニティプラットフォーム:

ユーザー同士や企業と顧客が交流・情報共有し、ロイヤルティを醸成。

LINEによるパーソナル通知・対話:

一人ひとりに合わせた情報配信や個別サポートをスマートフォン上で実現。

ビデオチャット/リモート接客:

オンライン上でも対面に近い詳細な相談や商品説明ができる。

ボイスアシスタント・スマートスピーカー:

音声操作で情報取得や商品の注文が可能となり、生活導線に溶け込む新たな接点に。

既存チャネルでは、「自動化」や「効率」等、顧客対応を画一的に行う傾向がありますが、新しいタッチポイントでは顧客一人ひとりの状況やニーズに合わせた柔軟でパーソナルな対応が可能となりつつあります。
企業は単なる情報提供や問合せ対応にとどまらず、顧客との継続的な関係構築や体験価値の増進を目指せるようになっています。

現状の課題や消費者動向

企業を取り巻く課題や消費者動向について見ていきます。

近年、とりわけ注目を集めているのが顧客体験に対する期待の高まりです。
モノやサービス機能自体がコモディティ化しやすい現在、消費者は「製品自体」よりも「どんな体験が得られるか」を重視するようになりました。
チャネルを問わず「どこでもストレスなく」、「待たされずにスムーズに」、自分に合った提案や対応を受けたい。
こうしたニーズは年々高まっており、企業には迅速な対応力、一貫したブランド体験、パーソナライズ化への対応が求められています。

特にオムニチャネル化、すなわちWEBサイト・アプリ・SNS・実店舗など複数チャネルを“シームレス”につなぐ取り組みの重要性が増しています。
どのタッチポイントを経由しても同じ品質のサービスを受けられることはもちろん、顧客データを統合し、「1人ひとりに最適な提案やサポート」を行うことも大きな課題です。
しかし、多くの企業が依然としてチャネルごとにデータや業務が分断され、横断的な対応やパーソナライズされたサービス提供が十分に行えていないという実情があります。

また、チャットボットや自動応答の普及で期待値が上がる一方「本当に助けてほしい場面」で十分な対応が得られないといったジレンマも起こりやすくなりました。
消費者サイドでは情報リテラシーも向上し、個人情報管理やプライバシー意識も高くなっています。
便利であるだけではなく、「安心・安全」な接点を求める流れも強まっています。

これら現状の壁を乗り越えるためには、デジタル変革(DX)の実行が不可欠ですが、日本企業の実情はどうなっているのでしょうか。
2023年に実施されたある調査によれば、「DXが十分に実践できている」と回答した企業はわずか約7%。
一方で「何らかの施策を検討・実施中」とした企業は約58%でした。
つまり、先進的な一部企業は「習熟期」に入りつつあるものの、全体としては「発展期~途上段階」にあるのが日本企業の現状といえます。
「とりあえず何かをやり始めたものの、社内体制や業務プロセス全体を変革し、データドリブン経営やCX最大化に至っている企業はまだ少数派」という状態が続いています。

今後のCX展望と企業が注力すべきこと

これからのタッチポイントおよびCXの展望を考える上で、最も重要なキーワードは「テクノロジーの適切な活用」と「顧客中心思考の徹底」です。

今後、AI技術やビッグデータの進化はさらに加速します。
例えばAIを活用した自動応答やレコメンデーション機能、ユーザー行動データをリアルタイムで解析した最適なタイミングでの案内など、「個別最適化されたCX」の提供領域はますます広がるでしょう。
ユーザーごとの属性や行動、過去の接点に基づいた体験設計により、一人ひとりが「自分のために」設計されたかのようなサービスを期待するようになります。

同時に、データ活用の精度や柔軟性も問われます。
複数チャネルに散らばる顧客データや行動履歴をリアルタイムに集約・分析し、それを次のアクションやサービス改善につなげる仕組みを築くことに加えて、プライバシー保護やセキュリティ対策の強化も必須となります。
顧客から信頼を得るには、単に便利さだけでなく「安心して使える」体制の確立が大前提です。

DX推進にあたっては、「単一部門の自動化」にとどまらず、部門横断的かつ全社的なCX戦略として捉え直すことが不可欠です。
例えば、営業・マーケティング・カスタマーサポート・開発など、従来は分断していた組織や業務プロセスを「顧客中心」に一体化し、全員が同じ目標=「より良い体験創出」に向かう体制への改革が求められます。
また、今後は新しいタッチポイントの活用と同時に、「人ならではの価値(ex. 温かみのあるサポート、状況に応じた柔軟な対応)」とのハイブリッドがカギとなるでしょう。
デジタルとリアルの価値の混在、そのバランスがCX向上の要になると思われます。

今後の展望

今後も企業と顧客を取り巻く環境や接点は変化し続けていきます。
そのスピードは年々増し、これまでの「常識」や「成功法則」が通用しない領域も増えていくでしょう。
そうした時代において企業成長を実現するためには、顧客接点の変化に柔軟に対応できる力がますます重要となります。

単なるチャネルの多様化や技術トレンドの追従だけでは十分ではありません。
顧客中心の発想を徹底し、「今、目の前にいる顧客」に最適化された体験を創造し続ける姿勢が、今後の競争力の源泉となります。
デジタルシフト・DXの本質は「テクノロジー活用」そのものではなく、「人と人との信頼や満足度をより高いレベルで実現するための手段」にほかなりません。

多様化する顧客接点の本質を見極め、チャネル横断の一貫性・データ活用・安心安全な基盤を整えつつ、リアルとデジタルを融合した新しいCXを生み出す。
そんな企業が、これからの時代にも選ばれ続けていくことでしょう。