DDEVとWSL2で作るDrupalローカル開発環境 構築ガイド
現在、Drupalコミュニティで公式に推奨されているローカル開発環境が DDEV です。DDEVは、Dockerという技術を基盤としたオープンソースのツールで、その最大の魅力は、プロジェクトごとに完全に独立した開発環境を、わずか数分で構築できる手軽さと安定性にあります。
DDEVを使うメリット
- 高速セットアップ: わずかなコマンドで、Drupalに最適化された環境がすぐに手に入ります。
- クリーンな環境: プロジェクトごとに環境が分離されるため、「PC内の設定が干渉して動かない」といったトラブルとは無縁です。
- チームで共有可能: 設定ファイルを共有するだけで、チームメンバー全員が全く同じ環境を再現できます。
この記事では、DDEVのインストールからDrupalサイトの立ち上げまでを、初心者が躓きがちなポイントも踏まえながら、ハンズオン形式で丁寧に解説します。コマンドラインの操作に不慣れな方でも、安心して読み進めてください。
ステップ1:開発の土台作り - WSL2のインストール
DDEVをWindowsで快適に利用するための、最も重要で不可欠な土台が WSL2 (Windows Subsystem for Linux 2) です。
WSL2って何? なぜ必要なの?
一言でいえば、WSL2は「Windowsの中に、もう一台パワフルなLinux専用PCを持つような仕組み」です。Web開発で使われるツールの多くはLinuxを基準に作られているため、WSL2を利用することで、Windowsを使いながらLinuxの強力な開発エコシステムを最大限に活用できるのです。
1-1. 必要なWindows機能の有効化
管理者権限のPowerShellで一つのコマンドを実行するだけで、WSL2のインストールが完了します。
- 1.Windowsのスタートメニューを右クリックし、「ターミナル (管理者)」または「Windows PowerShell (管理者)」を選択します。
- 2.開いたウィンドウで、以下のコマンドを入力し、Enterキーを押します。 wsl --install このコマンドは、WSLの実行に必要なWindowsの機能(仮想マシンプラットフォームなど)を自動で有効にし、デフォルトのLinuxディストリビューションとしてUbuntuをインストールします。
1-2. Windowsの再起動
コマンドの実行完了後、システムの再起動を求められます。これは、有効化された機能を完全に適用するために必須のステップですので、必ず再起動してください。
1-3. Ubuntuの初回起動とセットアップ
再起動後、スタートメニューから「Ubuntu」を検索して起動します。初回起動時は、自動でインストール処理が続行されます。完了すると、Linux環境で使用する新しいユーザー名とパスワードを設定するよう求められます。
- 重要: ここで設定するユーザー名とパスワードは、Windowsのログイン情報とは全くの別物です。Linux環境内でのみ使用するものなので、混同しないように注意してください。
1-4. セットアップの検証
環境が正しく構築されたかを確認します。再度、PowerShellまたはコマンドプロンプトを開き、以下のコマンドを実行してください。
wsl -l -v
このコマンドは、インストール済みのLinuxディストリビューションの一覧と、そのWSLバージョンを表示します。
NAME STATE VERSION
* Ubuntu Running 2
ここで最も重要なのは、VERSIONの列が 2 になっていることです。もし 1 になっている場合は、wsl --set-version Ubuntu 2 コマンドでバージョンを変換してください。
最後に、以下のコマンドでUbuntuをデフォルトに設定しておくと、今後の操作がスムーズになります。
wsl --set-default Ubuntu
ステップ2:コンテナエンジンの準備 - Docker Desktopのインストール
WSL2という土台の上に、開発に必要な部品(Webサーバー、データベース等)を「コンテナ」という箱に入れて管理するためのエンジン、Dockerをインストールします。
2-1. ダウンロードとインストール
- 1.Dockerの公式サイトから「Docker Desktop for Windows」をダウンロードします。
- 2.ダウンロードしたインストーラーを実行し、画面の指示に従ってインストールを進めます。
- 3.設定画面で、「Use WSL 2 based engine」のチェックボックスがオンになっていることを必ず確認してください。これがDockerとWSL2を連携させるための重要な設定です
2-2. WSL2との連携設定
インストール完了後、Docker Desktopを起動します。タスクトレイのDockerアイコンを右クリックし、「Settings」を選択します。
- 1.左側のメニューから Resources > WSL Integration と進みます。
- 2.「Enable integration with my default WSL distro」がオンになっていることを確認します。
- 3.その下のリストにある「Ubuntu」のトグルスイッチがオンになっていることを確認してください。
これにより、先ほどインストールしたUbuntuの中からDockerコマンドが利用できるようになります。
2-3. 連携の検証
スタートメニューからUbuntuを起動し、開いたターミナルで以下のコマンドを実行します。
docker --version
Docker version... のようにバージョン情報が表示されれば、連携は成功です。
ステップ3: DDEVのインストール
いよいよDDEVをインストールします。これからの作業はすべてWSL2のUbuntuターミナル内で行います。
3-1. Homebrewを使ったインストール
DDEVのインストールにはいくつかの方法がありますが、アップデート管理のしやすさから、Linux用のパッケージマネージャーであるHomebrewを利用します。
まず、Ubuntuターミナルで以下のコマンドを順番に実行し、Homebrewをインストールします。
/bin/bash -c "$(curl -fsSL https://raw.githubusercontent.com/Homebrew/install/HEAD/install.sh)"
(echo; echo 'eval "$(/home/linuxbrew/.linuxbrew/bin/brew shellenv)"') >> ~/.profile eval "$(/home/linuxbrew/.linuxbrew/bin/brew shellenv)"
Homebrewのインストールが完了したら、次のコマンドでDDEVをインストールします。
brew install ddev/ddev/ddev
3-2. SSL証明書のセットアップ
DDEVは、ローカル環境で信頼されたSSL証明書(HTTPS)を簡単に利用できます。これにより、ブラウザの煩わしい警告なしに、本番環境に近い形で開発を進められます。以下のコマンドを一度だけ実行し、そのための認証局をセットアップします。
mkcert -install
3-3. インストールの検証
最後に、DDEVが正しくインストールされたかを確認します。
ddev --version
ddev version... のようにバージョン情報が表示されれば、すべての準備は完了です!
ステップ4:最初のDrupalサイトを立ち上げる
すべてのツールが揃いました。DDEVを使って、ゼロからDrupalサイトを構築しましょう。
4-1. プロジェクト用ディレクトリの作成
パフォーマンスに関する最重要ポイント DDEVプロジェクトのファイルは、必ずLinuxのファイルシステム内 (/home/<あなたのユーザー名>/ 以下) に配置してください。WindowsのCドライブ (/mnt/c/ 以下) に置くと、ファイルアクセスの速度が著しく低下し、サイトの動作が非常に遅くなります。
Ubuntuターミナルで、以下のコマンドを実行します。
mkdir -p ~/projects/my-drupal11-site cd ~/projects/my-drupal11-site
4-2. DDEVの初期設定
プロジェクトディレクトリ内で、以下のコマンドを実行して対話形式の設定を開始します。
ddev config
- Project Name: デフォルトでディレクトリ名 (my-drupal11-site) が提案されます。→ Enter
- Docroot Location: デフォルトで web が提案されます。→ Enter
- Project Type: drupal11 と入力します。(構築したいバージョンに合わせて drupal10 などに変更可能です) → Enter
設定が完了すると、カレントディレクトリに .ddev というフォルダが作成されます。
4-3. プロジェクトの起動
次のコマンドで、DDEVのコンテナ(Webサーバーやデータベース)を起動します。
ddev start
初回起動時は、必要なDockerイメージのダウンロードが行われるため、少し時間がかかります。
4-4. ComposerによるDrupalのダウンロード
ComposerはPHPのライブラリを管理するツールです。DDEVにはComposerがプリインストールされているため、ddev を接頭辞として付けることで利用できます。以下のコマンドで、Drupal本体と関連ファイルをダウンロードします。
ddev composer create-project drupal/recommended-project .
4-5. Drushのインストール
DrushはDrupalをコマンドラインから操作するための必須ツールです。これもComposerを使ってインストールします。
ddev composer require drush/drush
4-6. Drupalのインストール
サイトのインストールも、Drushを使います。
ddev drush site:install --account-name=admin --account-pass=admin -y
4-7. サイトの表示
いよいよ、完成したサイトをブラウザで確認します!
ddev launch
このコマンドを実行すると、Windowsのデフォルトブラウザが起動し、https://my-drupal11-site.ddev.site のようなURLで、インストールしたばかりのDrupalサイトが表示されます。
お疲れ様でした!これで、あなただけのDrupal開発環境が整いました。
おまけ:覚えておくと便利なDDEVコマンド
- ddev stop: プロジェクトを停止します。
- ddev poweroff: DDEVに関連するすべてのコンテナを停止します。
- ddev ssh: プロジェクトのWebコンテナにSSH接続します。
- ddev describe: プロジェクトの接続情報(URL、データベース接続情報など)一覧を表示します。
- ddev restart: プロジェクトを再起動します。