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コンサルティング

”検索・比較・再検討”:非線形化するカスタマージャーニーの構造

2026/07/30公開
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なぜ資料請求をした顧客が、突然競合製品の情報収集を始めるのでしょうか。
なぜ導入事例を閲覧した顧客が、その後もう一度料金ページへ戻るのでしょうか。

マーケティングの世界では長らく、顧客は「認知→興味→比較→検討→購入」という順番で意思決定を行うと考えられてきました。
AIDMAやAISAS、ファネルモデルなどのフレームワークも、この考え方を前提に設計されています。

しかし、デジタル化が進み、誰もが膨大な情報にアクセスできるようになった現在、顧客行動は大きく変化しています。
顧客は企業から与えられた情報だけで判断するのではなく、自ら検索し、比較し、口コミやレビューを確認しながら意思決定を進めています。
そして、一度比較した後でも新たな情報を探し、再検討し、必要に応じて前の段階へ戻ることが当たり前になりました。

つまり、現代の顧客は企業が想定する一本道の購買プロセスでは動いていません。
こうした変化を表す言葉として注目されているのが、「カスタマージャーニーの非線形化」です。

本記事では、なぜカスタマージャーニーが非線形化しているのか、その本質はどこにあるのか、そして企業はどのようにマーケティング設計を見直すべきなのかについて解説します。

検索・比較・再検討が当たり前になった背景

カスタマージャーニーが非線形化している最大の理由は、顧客が利用できる情報量が飛躍的に増加したことにあります。
かつては、広告や営業担当者から提供される情報が意思決定の中心でした。
しかし現在では、検索エンジン、レビューサイト、比較サイト、SNS、動画コンテンツなど、多様な情報源へ誰でも簡単にアクセスできます。

例えば、SaaS製品の導入を検討する担当者を考えてみましょう。
まず検索エンジンで製品情報を調べ、比較記事を読み、レビューサイトで利用者の評価を確認します。
さらに導入事例を閲覧し、自社で活用できるかを検討します。
その後、社内で稟議を進める段階になると、今度は費用対効果や他社との価格差を調べ始めます。

ここで終わりではありません。
新たな疑問が生まれるたびに再び検索し、情報収集を繰り返します。

つまり現代の顧客は、
「調べる → 比較する → 購入する」
のではなく、
「調べる → 比較する → 再検討する → さらに調べる」
というループを繰り返しているのです。
この反復行動が、従来の線形的なカスタマージャーニーを崩している大きな要因といえます。

従来のカスタマージャーニーが想定していた“順番”とは何か

従来のマーケティングモデルは、顧客が一定の順番で購買へ向かうことを前提としていました。
代表的なファネルモデルでは、認知した顧客の一部が興味を持ち、その中の一部が比較・検討を行い、最終的に購入へ至ると考えます。

この考え方は顧客全体の傾向を把握する上では有効です。しかし、現在の複雑な購買行動を理解するには限界があります。
現代の顧客は比較の途中で別の製品を調べ、検討段階で再び情報収集へ戻ります。購入直前になって競合製品の導入事例を読み直すことも珍しくありません。
つまり、認知から購入までを一方向に進むのではなく、複数のプロセスを行き来しながら意思決定を進めているのです。

ここで重要なのは、顧客がどの段階にいるのかだけを見ることではありません。
なぜその行動を取っているのか、その背後にある目的や判断基準を理解することです。
順番だけに注目していては、顧客の本当の意思決定プロセスを捉えることはできません。

非線形ジャーニーの特徴――行動が揺れ、評価軸が変わる

非線形化したカスタマージャーニーには、大きく二つの特徴があります。
一つ目は、顧客の行動が一定方向に進まないことです。
顧客はWebサイト、SNS、比較サイト、レビューサイト、展示会、営業担当者との商談など、複数の接点を行き来しながら意思決定を進めます。
企業が想定する順序通りに情報を取得するとは限らず、必要に応じて何度も過去のプロセスへ戻ります。

二つ目は、判断基準そのものが変化することです。
例えば、最初は価格を重視していた顧客が、比較を進める中で導入効果を気にし始めることがあります。
あるいは機能比較をしていた顧客が、最終的にはサポート体制や企業の信頼性を重視するケースもあるでしょう。

つまり顧客は、単に行動を繰り返しているのではありません。
検討を進める中で、「何を重視するか」という評価軸そのものを変化させているのです。
そのため、「比較段階の顧客」という大きな括りだけでは、顧客の状態を十分に理解することはできません。

非線形性の本質は「コンテキストの変化」にある

非線形のカスタマージャーニーという言葉を聞くと、多くの人は「行動順序が複雑になった状態」をイメージします。

しかし、本質はそこではありません。
本当に変化しているのは、顧客のコンテキストです。
顧客は状況や目的によって、その時々で異なる判断を行っています。

例えば、同じ料金ページを閲覧している顧客でも、

  • 稟議書に記載する予算を確認したい人
  • 競合製品との価格差を把握したい人
  • ROIを算出するために費用を確認したい人
では、求めている情報がまったく異なります。

表面的な行動だけを見ると、どれも「料金ページの閲覧」です。
しかし、その背後にある目的や判断基準は大きく異なります。
この違いを理解せずに同じ情報を提供してしまうと、本当に必要としている情報を届けることはできません。

つまり、非線形性とは、単に行動順序が乱れている現象ではありません。
顧客のコンテキストが変化し、それに伴って判断基準や評価軸が変わり続けている状態を指しているのです。

非線形性を前提にしたマーケティング設計"

では、このような非線形のカスタマージャーニーに対して、企業はどのようなマーケティング設計を行えばよいのでしょうか。
重要なのは、「顧客がどのステージにいるか」ではなく、「顧客が今何を判断しようとしているか」を把握することです。

顧客の行動に対する提供すべき情報の例
顧客の行動 顧客が判断しようとしていること 提供すべき情報・コンテンツ
料金ページを繰り返し閲覧している 導入可能な予算か、費用対効果に見合うかを確認したい
  • 料金体系
  • ROI資料
  • 費用対効果の解説コンテンツ
導入事例ページを複数回閲覧している 自社でも活用できるかを確認したい
  • 同業界の導入事例
  • 活用シナリオ
  • 導入効果の紹介
比較記事や競合比較コンテンツを閲覧している 他社との違いや優位性を評価したい
  • 比較表
  • 選定ガイド
  • 差別化ポイントの解説
機能紹介ページを継続的に閲覧している 自社課題を解決できる機能があるかを確認したい
  • ユースケース
  • 機能詳細資料
  • 業務別活用方法
資料ダウンロード後にサイトへ再訪している 稟議や社内説明に必要な情報を集めたい
  • 稟議用資料
  • 導入プロセス
  • FAQ
  • 導入支援情報

つまり、「比較」という同じ行動の中でも、顧客が解決したい課題は変化しているのです。
そのため、マーケティング施策もステージベースではなく、判断基準ベースで設計する必要があります。

重要なのは、「比較段階の顧客」という一括りのセグメントではなく、「今何を判断しようとしている顧客なのか」という視点でコミュニケーションを設計することです。
つまり、施策設計の起点を「顧客が認知・比較・検討のどこにいるか」ではなく、「顧客が今何を判断しようとしているか」に置き換えることが、非線形のカスタマージャーニー時代のマーケティング設計といえるでしょう。

おわりに

顧客行動の非線形化は、今後さらに進んでいくと考えられます。
生成AIやSNS、動画メディアの普及によって、顧客が取得できる情報量はますます増加しています。
結果として、企業が描く「認知→比較→検討→購入」というシナリオと、実際の顧客行動とのギャップはさらに大きくなるでしょう。

その中で企業に求められるのは、顧客を無理にファネルへ当てはめることではありません。
大切なのは、顧客が今何を知りたいのか、何を判断しようとしているのかを理解し、その意思決定を支援することです。

非線形化したカスタマージャーニーへの対応とは、顧客をステージで管理する発想から、顧客の判断を支援する発想への転換ともいえます。
施策設計の起点を「認知・比較・検討のどこにいるか」から、「今何を判断しようとしているか」へ置き換えること。
それは、変化し続ける顧客のコンテキストを理解し、意思決定に寄り添うための第一歩といえるでしょう。